一九六○(昭和三十五)年、NHKから出演の話があり、ゴキブリと洗剤の話をすることになりました。こうなると、いかなるメカニズムでゴキブリが死ぬのか解明しなくてはなりません。目黒の国立予防衛生研究所で三原実氏に調べて頂き、その結果、洗剤のもつ強い海面活性のために、水分がゴキブリの気孔に浸透して溺死するというのです。洗剤の毒性ではないと証明してくださいました。そこで安心して「こんな、簡単でよい方法があります」とNHKテレビでお話しした結果、たいへんな反響がありました。好意的なものばかりでなく、清潔な台所用洗剤のイメージが壊れるというメーカーからのお叱りもありました。一九六二(昭和三十七)年、もっとたいへんなことになってしまいました。合成洗剤有毒説と反対運動が起こり、その格好の例として「ゴキブリと洗剤」が宣伝スローガンにされたのです。洗剤メーカーも私も、ゴキブリは溺死であるという必至の反撃をしました。この合成洗剤追放運動は、厚生省の合同実験でシロになった一九七六(昭和五十一)年になっても続けられ、一九八五(昭和六十)年ごろになってやっと鎮静しました。今ではさすがに誰も、合成洗剤は毒だとはいいませんが、環境を汚染するといい続けています。実際には、石けんだって有機物で河川を汚すことは合成洗剤以上であることも実証されています。
一年後、資生堂からまた一種類カラーリンスが追加されて合計三種類、花王からも発売され、その他のメーカーからもだんだん出揃ってきました。しかし、新製品は、業界誌の発売のニュースから一か月くらい、必死に探し歩きましたが、なかなか手に入りません。名もないメーカーの新製品に、きっといいものと、よくないものがあるはずです。使った製品は、資生堂の三種、千二百円、八百円のカラーリンス、それに千二百円のトリートメントカラーリンス、もう一つ、コーミングヘアカラー八百円、花王のカラーインリンス八百円、もう一つ、ランリーカラーリンスという粉末酸性染料一グラム入り五袋千二百五十円、色調は、ブラウンとグレイを使いました。以上の製品は、多分、酸性染料であろうと推定した上でのことです。その根拠は、手によく染めつくこと、いずれも「地肌につけないように」とあることから、昔、女学校の家事の時間の染色の授業を思い出し、それに従って、酸性染料らしいといろいろの推理をしてみたわけです。酸性染料というのは、水溶性染料で食品色素や医薬品にも使われる、いわゆるカメノコの化学構造式をもつもの。毛髪のたんぱく質のアミノ基やカルボキシル基が色素とイオンで結合して、主に発色するという程度の知識しかなく、その上比色計も光度計も持たずに、あれこれいうのも気がひけますが、なかなかおもしろくて希望がもてる染料です。